米原万理『打ちのめされるようなすごい本』で知った一冊。著者はあとがきで「結局、中村さんを突き動かしているものは、何なの」かを知ることはできなかったと書いている。「中村はそれを語らず、周囲の証言に核心なく、わけても私の眼力が、足りなかった」。
確かに様々なエピソードを丹念に追ってはいるものの、最終的にそれらが収束しないという感は残る。しかしだからと言って本書がつまらないという訳ではない。例えば、中村とその初期の派遣団体JOCSやペシャワール・ミッション病院院長との関係、現地で長年苦楽を共にしたシャワリ医師との確執、ペシャワール会の財政状況などは、これまで読んだ中村本人の著書にはないものだった。
本書から何を受け取るかは、結局読み手の問題なのだろう。著者はあとがきで「もちろん、だれもが中村のようには生きられない」「だがしかし、中村のような人間の存在を知ることで」「自らの足下を見つめ直すことは出来る」とも記す。まずはこんな日本人がいたことを知る。そしてこんな生活をしている人たちがいることを知る。それが重要なのだと思う。